2017-08

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≪ 磁石とイジング模型 4 (磁化) ALL 数値積分のテクニック ≫

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磁石とイジング模型 5(磁化の安定性)

前回は平均場近似から磁化mに対する条件,m = tanh((4m+H)/T)をHについて解いた式

H(m) = T arctanh(m) - 4 m .....(9)

から磁化がmで与えられる時の磁場Hの関係をグラフにしました。 T=3の場合のグラフを考えてみましょう。横軸はmで縦軸はHです。赤い点線はある理由から少し注意が必要で、それが今回のテーマです。 isingjisyaku02.gif


よく磁化mのHに対する応答を調べる意味でχ=dm/dHという量を調べます。これは磁場を少し変えたときの磁化の変化率で、今の場合

χ = (dH/dm)-1 = 1/[T/(1-m2) -4 ] ......(10)

となります。統計力学で良く知られた事として磁化の変化率χは常に正でなくてはなりません。

統計力学から要請 ⇒ χ ≧ 0

これは証明が可能(補足1)ですが、その意味は「磁場を強くすると磁化は磁場の方向へ強くなる」なのでもっともな事です。さてこの条件を解くと

m2 ≧ 1- T/4 .......(11)

が出てきます。温度が T≧4の場合(11)式は常に満たされています。つまりこの条件を考慮しなければならないのは温度がTc=4よりも低い場合だけです。Tc=4は相転移温度と呼ばれます。温度がTcよりも低い場合は磁化の安定性が破れるだろうと予想がつきます。今回の図はT=3なので√(1-T/4)=1/2を代入すると

- 1/2 < m < 1/2  ( -0.352 < H < +0.342)

の領域はχが正の条件を満たす事ができないので(平均場近似の)不安定領域になります。括弧内その時のHの値で、(9)式って求めました。これが図に赤い線で描いた領域の意味です。

χ > 0 は数学的に証明されたことなのでこの条件は必ず満たされなければなりません。一方平均場近似は数学的に正当化されていませんからχ > 0 が成立しない領域では平均場近似がおかしな結果を与えていると考えざるおえないでしょう。そこで問題ですが、赤い点線でつながれた領域では磁化と磁場の関係はどのようになるのでしょうか。この領域では平均場近似は信用できないので別な手法を考える必要があります。

ところで上の図を横軸を磁場H, 縦軸をその時の磁化としてグラフを描くと下の図のようになります。図形問題が得意な人は上の図と下の図が横軸と縦軸を入れ替えただけのものである事が分ると思います。そうでない人はしばらく図を見つめて下さい。

isingjisyaku03.gif

さてこの図、ある磁場Hをかけた場合の磁化mを与えるものですが -0.352 < H < +0.342 の領域では一つのHに対して対応する磁化の値は3つあります。上の議論では χ > 0 という条件からこの領域は平均場近似の答えがおかしいのだと説明しました。その事情はグラフの縦と横を入れ替えただけのこの図でも全く変わりません。しかし横軸にHを持ってきた方が物理的な意味合いが分りやすいでしょう。例えば次のようなアイディアが浮かびます。先ずHが大きくなると磁化は磁場に影響されてm=+1に近くなります。しかし全てのスピンが+1の値をとれば磁化はそれ以上強くなりませんから磁化は H→∞で m = 1に漸近するはずです。逆にH→-∞では m =-1に漸近するでしょう。実際図もそうなっています。

それでは大きなHの値から磁場を弱くしていったどうなるか考えてみましょう。例えばH=1.5から磁場を弱くしていきます。磁化mは図のH-m曲線にそって次第に弱くなってゆくでしょう。ところがH-m曲線は H = +0.342にきたときに問題が発生します。対応する磁化mの値がH=+0.342では二つ、H<0.342では3つあるのです。すると磁化mはどの値をとって良いかわかりません。分らないなら取り合えずH=1.5から磁場を小さくしてきたH-m曲線に乗て滑らかに連続的な振る舞いをするのが自然な気がします。つまりH=1.5でのH-m曲線に乗ったままH=-0.342まで下がってくると考えるわけです。ところがH=-0.342までくると連続的振る舞いは不可能になるので磁化mの値は負の値に飛んでH→-∞, m→-1 へ漸近してゆく曲線に移動すると考えられるでしょう。このアイディアを描くと下の図のようになります。つまり大きなHから徐々に磁場を弱くして行くと, -0.342< H < 0.342 の領域では緑の曲線が実現されm=-1の曲線に漸近していきます。逆に大きな負の値から磁場Hを徐々に正にもってゆくと赤い線からm=1の曲線に漸近する事になります。この図は磁石のヒシテリシス曲線として良く知られているものと非常に良く似ています。

isingjisyaku04.gif


もしもこの説明が正しいなら磁石のヒシテリシス曲線の振る舞いをイジングモデルを使って理解できた事になります。このように夢を膨らませるのは楽しいんですが、少し飛躍しすぎる気がします。なぜならこの議論は統計力学からの要請χ > 0が成立しない領の平均場近似曲線に基づいています。またこのアイディアを支える数学的な基礎もありません。通常の統計力学で分配関数を計算しても磁化mがHの履歴に依存する振る舞いはでてこないと思えるからです(補足2)。

そこでこの辺の難しい判断は御預けにして話を少し先に進めたいと思います。後々イジングモデルを数値的に計算すればT < Tc での磁化の振る舞いも調べる事ができるはずです。または何か新しい方法が出てくるかもしれません。難しい事は将来の楽しみにして簡単な事から片付けましょう。



==============================================================
(補足1) χ > 0 の証明は簡単です。まず

m = Σ Si e-βE/Σ e-βE

を使います。因みにE=E(S,h)はイジング・スピンと磁場の関数だったことに注意してください。するとdE/dh = -Siが分ります。つまり

dm/dh = β Σ Si2 e-βE/Σ e-βE + (-β)[ Σ Si e-βE ]2/[ Σe-βE ]2
= β [ < Si2 > - < Si >2 ] 
= β < ( S-< S > )2 > ≧ 0

です。証明終わり。

(補足2)分配関数はHの解析関数です。イジング・スピンの個数N→∞の統計力学極限を取って解析性は壊れるにしてもHの履歴に依存する答えは出て来ないでしょう。

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