書評: 熱力学の基礎
総合評価:5
お薦め度:5
レベル :これから熱力学を学ぶ人〜大学院生レベルと幅広く
コメント:熱力学を理解したいという人は一読も二読もすべし
以前田崎晴明著の熱力学(「熱力学=現代的な視点から」)を読みふけっているということを書いて多少その内容を紹介しました。それは私が持っていた熱力学に対する偏見「難しく、経験則だけであまり面白くない学問」という考えを、「奥が深く、そして楽しい」へと180度変えてくれました。それは非常によく整理された形で熱力学を提示してくれる田崎先生流の視点と、物事を「原理、定理、仮定…」でしっかりと区別して読者に丁寧に説明してくれる書き方が良かったのだと思います。
それ以来、敬遠していた熱力学にも非常に興味がわき、先月は清水明著「熱力学の基礎」を購入して読みました。これは熱力学=現代的な視点から」に勝るとも劣らない出来の教科書ではないかと思います。以下にちょっとその紹介をしたいと思います。
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-062609-5.html まず、熱力学の定式化のスタイルで言えばスタンダードなものであるという印象です。但し、その明確な論理展開という意味では類を見ない教科書だと思います。
最初に多少の数学的な準備と平衡状態についての解説があった後に、エントロピーが導入されます。ここでエントロピーとは何か?ということに関してはあまり議論されません。これは理論の出発点であって、その物理的な意味はこの出発点によって構成された熱力学の体系をもって理解してほしいという立場です。一見不親切だと思うかもしれませんが、究極的にはエントロピーが何かということを説明するには熱力学を説明するしかないわけで、これは解析力学で言うところのラグランジアンに対応します。解析力学では、ラグランジアンとその最小作用の原理を与えることで力学を定義しますが、熱力学ではエントロピーとその性質としての最小エントロピーの原理を出発点にする立場です。これは熱力学の構成について色々と考えた挙句にたどり着いた結論ではないでしょうか。エントロピーから出発するのがもっとも自然で、すっきりした構造になるのだと。
清水先生(東大教授)は本の中で何度も何度も、「読者自身の言葉で、同じ結論を得る論理ステップを構成する事」を要求しています。本を読み知識を得るだけではその本当の意味は理解できないという事を、多くの学生を見て知っているのでしょう。やはり凡人は物事は自分の頭で考えないと、身につかないということなのでしょう(世の中にはごく限られた数の天才がいて、一を聞いて百を知る事もあるでしょうが、それは統計誤差でしょう、大数の法則にしたがって揺らぎは小さくなりそうです)。
読み終わった後に、私も自分の頭で多少は考えてみましたが、エントロピーとその最小原理からスタートするこの立場は非常に分かりやすいものだと思います。但し普通の教科書ではあまり議論されない、エントロピーの凸関数としての性質を徹底的に、そして一貫して使っており、これが非常に大事なのだと思います。また適宜高度な知識や陥りやすい考え違いを正すためのコメントが非常に有用だと思います。これらの箇所を読むだけでも十分意味のある教科書だと思いました。量子力学や場の理論まで踏み込んだコメントもあり、これらは大学院生でも一読の価値があると思います。
この本を読む前の楽しみでもあった、田崎流の定式化との比較もしました。二人の著者がどのような視点で、複雑な熱力学を学生や読者に定式化してくれるのか、これが私にとって読書後の楽しみでもあったわけです。今現在(趣味は時間と共に変わりえますから)の私の感想としては、「熱力学=現代的視点から」も非常に面白かったけれど、どちらかと言うと標準的な「熱力学の基礎」の方がわかり易く、特に初めて熱力学を学ぶ人には良いのではないかと思います。好みの問題もあるでしょうが、熱力学の核心でもあるエントロピーとその最小原理を出発点にしたほうが方が素早く熱力学的な思考に慣れることができると思うからです。こういった各個人の趣向に関して、二者択一の議論をしても意味がないのですが、少なくとも初学者にとっては、深く理解すること以上に、早い時期に全体を見渡すということは大事だと思います。そういった意味で、学生の人には「熱力学の基礎」清水明著(東京大学出版会)を特にお勧めします。もちろん田崎晴明著の「熱力学=現代的視点から」も是非是非読んでほしい本です。
つまりこの二冊はどちらも買って読んでくださいということです(笑)。こんなに丁寧で良く書かれた本がたった3800円(「熱力学=現代的な視点から」はもう少し安い)で手に入るなんてお買い得です。今時映画館に2回行けばこれくらいのお金はかかりますから。とは言え映画もレンタルの時代ですから、この比較はほとんど意味がなくなりつつあるのでしょう。映画好きの私にとっては寂しい事です。話をもどして、総合評価もお勧め度も私の感覚では5つ星です。兎に角お勧めです!
お薦め度:5
レベル :これから熱力学を学ぶ人〜大学院生レベルと幅広く
コメント:熱力学を理解したいという人は一読も二読もすべし
以前田崎晴明著の熱力学(「熱力学=現代的な視点から」)を読みふけっているということを書いて多少その内容を紹介しました。それは私が持っていた熱力学に対する偏見「難しく、経験則だけであまり面白くない学問」という考えを、「奥が深く、そして楽しい」へと180度変えてくれました。それは非常によく整理された形で熱力学を提示してくれる田崎先生流の視点と、物事を「原理、定理、仮定…」でしっかりと区別して読者に丁寧に説明してくれる書き方が良かったのだと思います。
それ以来、敬遠していた熱力学にも非常に興味がわき、先月は清水明著「熱力学の基礎」を購入して読みました。これは熱力学=現代的な視点から」に勝るとも劣らない出来の教科書ではないかと思います。以下にちょっとその紹介をしたいと思います。
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-062609-5.html まず、熱力学の定式化のスタイルで言えばスタンダードなものであるという印象です。但し、その明確な論理展開という意味では類を見ない教科書だと思います。
最初に多少の数学的な準備と平衡状態についての解説があった後に、エントロピーが導入されます。ここでエントロピーとは何か?ということに関してはあまり議論されません。これは理論の出発点であって、その物理的な意味はこの出発点によって構成された熱力学の体系をもって理解してほしいという立場です。一見不親切だと思うかもしれませんが、究極的にはエントロピーが何かということを説明するには熱力学を説明するしかないわけで、これは解析力学で言うところのラグランジアンに対応します。解析力学では、ラグランジアンとその最小作用の原理を与えることで力学を定義しますが、熱力学ではエントロピーとその性質としての最小エントロピーの原理を出発点にする立場です。これは熱力学の構成について色々と考えた挙句にたどり着いた結論ではないでしょうか。エントロピーから出発するのがもっとも自然で、すっきりした構造になるのだと。
清水先生(東大教授)は本の中で何度も何度も、「読者自身の言葉で、同じ結論を得る論理ステップを構成する事」を要求しています。本を読み知識を得るだけではその本当の意味は理解できないという事を、多くの学生を見て知っているのでしょう。やはり凡人は物事は自分の頭で考えないと、身につかないということなのでしょう(世の中にはごく限られた数の天才がいて、一を聞いて百を知る事もあるでしょうが、それは統計誤差でしょう、大数の法則にしたがって揺らぎは小さくなりそうです)。
読み終わった後に、私も自分の頭で多少は考えてみましたが、エントロピーとその最小原理からスタートするこの立場は非常に分かりやすいものだと思います。但し普通の教科書ではあまり議論されない、エントロピーの凸関数としての性質を徹底的に、そして一貫して使っており、これが非常に大事なのだと思います。また適宜高度な知識や陥りやすい考え違いを正すためのコメントが非常に有用だと思います。これらの箇所を読むだけでも十分意味のある教科書だと思いました。量子力学や場の理論まで踏み込んだコメントもあり、これらは大学院生でも一読の価値があると思います。
この本を読む前の楽しみでもあった、田崎流の定式化との比較もしました。二人の著者がどのような視点で、複雑な熱力学を学生や読者に定式化してくれるのか、これが私にとって読書後の楽しみでもあったわけです。今現在(趣味は時間と共に変わりえますから)の私の感想としては、「熱力学=現代的視点から」も非常に面白かったけれど、どちらかと言うと標準的な「熱力学の基礎」の方がわかり易く、特に初めて熱力学を学ぶ人には良いのではないかと思います。好みの問題もあるでしょうが、熱力学の核心でもあるエントロピーとその最小原理を出発点にしたほうが方が素早く熱力学的な思考に慣れることができると思うからです。こういった各個人の趣向に関して、二者択一の議論をしても意味がないのですが、少なくとも初学者にとっては、深く理解すること以上に、早い時期に全体を見渡すということは大事だと思います。そういった意味で、学生の人には「熱力学の基礎」清水明著(東京大学出版会)を特にお勧めします。もちろん田崎晴明著の「熱力学=現代的視点から」も是非是非読んでほしい本です。
つまりこの二冊はどちらも買って読んでくださいということです(笑)。こんなに丁寧で良く書かれた本がたった3800円(「熱力学=現代的な視点から」はもう少し安い)で手に入るなんてお買い得です。今時映画館に2回行けばこれくらいのお金はかかりますから。とは言え映画もレンタルの時代ですから、この比較はほとんど意味がなくなりつつあるのでしょう。映画好きの私にとっては寂しい事です。話をもどして、総合評価もお勧め度も私の感覚では5つ星です。兎に角お勧めです!
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