2008-08

電磁気学 その8

前回までに、静電荷と定常電流が電場と磁場を作る事を説明した。ゲージ場を使った電磁気学についてまとめると言いつつも、通常の電磁気学と大して代わり映えしない内容であった事は認める。しかし今回は少しばかり違う。前回までの記事に不満を感じる好奇心と向上心の強い読者にも楽しんでもらえるのではないだろうか。今回はゲージ場に焦点を当てたい。 静電荷が生み出すクーロンポテンシャル φ=-e/r は誰でも知っているだろう。高校でポテンシャルという概念を習って以来、そのイメージがあまりにも直感に訴えてくるので、まるで目に見えるかのようである。それでは電荷が運動を始めるとクーロン・ポテンシャルはどうなるのだろう?ポテンシャルの原点も電子の運動に合わせて平行移動するのだろうか?ポテンシャルの原点と電子の位置がずれるなんて事もあるの? 形は歪むのだろうか? などといろいろと疑問がわく事だろう。しかし通常の電磁気学の本を調べてみてもこの答えは見つからない。なぜならポテンシャルとは、座標原点に静止した電荷が存在する場合に, 無限遠点から座標rまで試験電荷を運ぶ仕事として定義されるのだった。静止した電荷しか扱えない定義なのだ。クーロン・ポテンシャルをいくら深く理解しても運動する電荷に対して何の答えも得られないのだ。この問題に答えるためには、電荷がつくるゲージ場を知る必要がある。

ゲージは電荷が運動する場合へのクーロン・ポテンシャルの拡張になっている。しかし、なぜ4成分も必要なのだろうか? という疑問もわく。見当がついている読者もいるだろうが、ゲージ場の第0成分A0はクーロン・ポテンシャルに対応する。残りの空間の3成分 A=(A1, A2, A3)を通常の電磁気学ではゲージ・ポテンシャルと呼ばれているだろう。クーロンポテンシャルは電荷がつくるのであれば残った3つの自由度Aは電流が作るポテンシャルに対応するはずである。

ここで注意が必要である、静的な電荷分布の場合のように空間微分するだけでは電場や磁場は出てこないのだ。運動する電荷がつくるゲージ場と電磁場の関係は少し複雑な 

Ei=F0i=∂tA+A0
Bi=Fjk=-∇×A

で与えられるのであった(補足)。静的なゲージ場を仮定すれば電場に対する
E=A0
という高校で習うポテンシャルと電場の関係が出てくる。その意味でゲージ場は運動する電荷がつくるポテンシャルに対応するはずである。

電荷が存在するとその周りには電場が存在する。電荷が運動を始めると電流となり、電流は磁場を生み出す。つまり運動する電荷の周りには電場と磁場の両方が存在する。ここで、クーロン・ポテンシャルから電場が求められたように、4成分のゲージポテンシャルから電磁場を計算することができるはずである。つまり我々が欲しいのは電荷がつくるゲージ場である。一旦、ゲージ場が与えられれば電磁場は上の関係式で導出される。また逆の問題設定も可能だ。ゲージ場が与えられた時に電荷の分布やその運動の様子を知る事ができるだろうか?ということだ。この章では、これらの問題に答えつつ、一個の電子が作るゲージ場に焦点をあてたい(補足2)。

やりたい事ははっきりした。運動する電荷が作るゲージを求めるのだ。この計算はやや面倒になるのでいくつかの節にわけて説明することにした。しかしゆっくりと全ての計算をおっていけるように書いてゆくので心配なく。今回はそのためのイントロダクションだ。これからの道筋とその動機は明確になっただろうか?

(補足1):これは前回までに電磁場の定義として説明した。実はゲージ場と電磁場の関係は定義とする必要はなく導出可能なものなのだ。しかし全てを最初から説明すると長くなるため、これまで定義としてきた。この事については第9章で説明するつもりだ。

(補足2):なぜ一個の電子がつくるゲージ場を調べるかというと、全ての始まりは点だからである。電荷分布は点電荷の集まりだし、電流は点電荷の運動だ。自然界に存在する電場や磁場は全て、一個の電子が作る電磁場の重ね合わせである。

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